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航空および海運業界における注目ポイント:業界の専門家が「無菌」操舵室の長所と短所を議論
技術の進歩により、飛行機の操縦時に人間よりも自動化されたシステムに頼ることが多くなりました。しかし、操縦を担当する生身の人間が普段以上に集中しなければならない状況もいまだに存在するのも確かです。
無菌操縦席とは、まさにこのことを指します。操縦桿を握る人間は、目の前のタスクに直接関係のない会話は避けなければなりません。例えば、着陸態勢に入っているときに何気ない会話や気が散るような会話をすると、関係者全員にとっての大惨事へとつながりかねません。
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技術の進歩により、飛行機の操縦時に人間よりも自動化されたシステムに頼ることが多くなりました。しかし、操縦を担当する生身の人間が普段以上に集中しなければならない状況もいまだに存在するのも確かです。
無菌操縦席とは、まさにこのことを指します。操縦桿を握る人間は、目の前のタスクに直接関係のない会話は避けなければなりません。例えば、着陸態勢に入っているときに何気ない会話や気が散るような会話をすると、関係者全員にとっての大惨事へとつながりかねません。
この無菌操縦席のコンセプトを船舶にどのように適用していくのか、この分野における専門家が海運業界と航空業界からの代表者を交えて概説しています。
スタンダードクラブのポッドキャスト「Alongside」(視聴 はこちら)で、元空軍・民間パイロットのPatrick Browne氏は、「無菌操縦席」とは操縦室の清潔さのことを指すのではないと説明します。
「これは1981年にFAAが導入した概念です」とBrown氏は語り、「予防することができたとされる死亡事故の前例を踏まえて、10,000フィート以下を飛行している際には不要の会話はするべきではないとされています」
「その理由は、これはフライトの重要な局面であり、操縦席で不要不急の会話をすることで状況認識力が欠けてしまう可能性があるからです」 と続けます。
リスクの高い業界向けにカスタムメイドされた安全訓練・教育システムをグローバルに提供するFlightdeck Safety Initiatives(FSI)を設立したBrowne氏は、この概念が飛行高度に基づくだけではないことを説明しています。特に混雑したエリアでの離着陸時、空中給油時、サービスアプローチ時をはじめ、悪天候回避、飛行中の緊急事態、エンジン故障、構造上の非常事態の際にも当てはまります。
米国最大のタンクバージ運航会社でスタンダードクラブの会員でもあるKirby Corporationは、Browne氏と協力し、行動安全性を向上させるためにこういった方策のいくつかを海運業界にも適用させるべく尽力しています。
Kirby社の船舶運航担当上級副社長Jim Guidry氏は、この方策は海上輸送にも適用できると話しており、接岸時や狭い橋の通過時、混雑したエリアの航行時や当直交代時などに気が散らないようにすることは、安全性を維持するために必要不可欠と考えられます。
「船の責任者である操舵手が、集中力を高めるために必要だと判断すればいつでも無菌操舵室を宣言できることが、当社の基本方針の一部になっています」とはGuidry氏の弁です。
また、ロック、ドッキング、ドッキング解除など、重要な集中力が必要な場合には、操舵手に無菌操舵室の申告を要請することもできます。
安全管理のリーダーとしての航空業界
海運業界と比べた際に、航空業界では事故発生時にはより大惨事となる可能性が高いため、特に安全対策に対しては最大限の対策を講じています。
Browne氏は「通常、事故現場に最初に居合わせることになるのは乗務員ですので、そのような場面に遭遇することがないようにできるだけ事故を防ぐ方法を常に追求しています」と説明します。
こういった現状から、航空業界は旅行者と乗組員の心身の健全性確保に関してはダイナミックなパイオニア的存在となっています。このように安全対策に細心の注意を払うことで、他の業界にもプラスの影響を与えて重大な事故発生時の被害軽減につなげることが期待できます。
FSIは、クルーズ船からタグボートまで約12〜13におよぶ他の海事業界と協力し、無菌安全対策の拡大をサポートしてきました。
航空業界と海運業界の比較
しかし、航空業界での方法論をそのまま他業界に適用することには、業界間に根本的な違いがあるとして懐疑的な意見もあります。また、飛行機と船舶の操縦に違いがあるだけでなく、速度の差も大きくなります。
Guidry氏は「最初は、関連性を見出すのが難しかったです。飛行機はとても速く飛ぶわけですし、着陸や離陸時の操縦に関する進化も目覚ましいものがありますから」と述べ、
タンカー船の航行速度はおよそ時速5マイルでドッキングには45分から1時間かかることもあると続けています。その際の操縦行動は、一見すると航空機との類似性は低いかもしれませんが、速度に関係なく、対策を講じることで安全性に多大な影響を与えることができるのは確かです。
Guidry氏は「内陸部のタグボートの多くは1人で操船しています」と語り、「ブリッジには沿岸および海洋航行が関わる場面ではより多くの人々によって有人管理されていますが、注意散漫の危険性に対する懸念は同じです」と続けます。
「ですから、ブリッジに6人いても、6人全員が6つの異なる考えを持って6つの異なる行動について考えていたら、実は操舵室に1人いるのと同じもしくはそれ以上に危険なのです」 とは同氏の弁です。
無菌操舵室は、近隣の他の船舶などの外部要因に対応するためにも役立ちます。タンカーは、乗組員の乗降や操船をサポートする船舶に、無菌操舵室状況に入るよう要請して注意散漫にならないようすることができます。
無菌状態の問題点と人的解決策
安全性を追求したものであったにもかかわらず、無菌操縦席を導入した当初はいくつかの問題を乗り越える必要がありました。
Browne氏は「パイロットに伝えようかどうしようか?という姿勢が見られたのです」と説明し、「1989年、エア・オンタリオ1363便のF28機は69名の乗客を乗せてカナダのウィニペグへ向けて運航を開始しましたが同機は離陸後まもなく墜落しました。死者は24名、生存者は45名でした。興味深い点として、離陸前に翼に氷が張っているのを確認した乗客2名が客室乗務員の一人に忠告しているのです」と続けます。
「無菌操縦席規則について十分に理解していなかったため、パイロットは客室乗務員からの飛行関連情報は聞きたくないだろうと考えて、操縦室に連絡をしてパイロットに伝えることはなかったのです」
この事件は、無菌操舵室の実施とコミュニケーションの徹底のバランスを取るために、必要なときにクルーが発言できるような教育や文化を確立することの重要性を浮き彫りにしています。
Browne氏は「例えば新人の甲板員がいるとして、最善の判断を下すためにできるだけ多くの情報を必要とする船長にとっては、この新人も貴重な戦力になるかもしれないわけです。ですから、もしこの新人に権限が与えられなかったり、意見してもいいという点を伝えられなければ、貴重な戦力を失うことになるのです」と話します。
Kirbyは、米国の全3海岸に沿った湾岸間水路のミシシッピ川水系全体で、バルク液体製品の輸送を担っていますが、北米で二番目に長いこの川は、南北に大きく流れ、洪水と引き潮の傾向に特徴があります。
Guidry氏は、このことが特に航海を難しくしていると説明します。Browne氏によると、広い外洋水域を航海する大変さは、長距離の国際線フライトに似ているとされますが、国内線は、逆に河川・沿岸の航海に似ています。
海運業は本来、船長を最終的な権威とする上下関係に成り立っています。しかしGuidry氏によると、この関係はここにきて無菌操舵室システムによって揺らいでいます。
Guidry氏は「人々が発言することが必要であり、それに船長が耳を傾けることが必要です」と述べます。
仕事の性質上、船舶の航行に関しては絶対的な権威のもとにおいてトップダウン式の意思統一が必要ですが、船長は乗組員の声にも耳を傾けて、一人ひとりの懸念事項を把握していくことも大切です。そのため、現在では「情報はどこからでも入ってくる」ということを責任者に周知徹底させるためのトレーニングに重点がシフトしています。
業界全体を見ても、事件や事故の60~80%は人的影響によって引き起こされています。それにもかかわらず、このエリアに対して訓練予算が割かれる割合は技術訓練と半々です。船舶の運航者、船主、安全管理者、規制当局の全てが一体となって、人的ミスの深刻度に対処する方向に考えをシフトすることが今、求められています。